柳澤ユカ写真展 ABSURD

 

期間 2022.10.10-16

場所:Place M (新宿)

友達らしいMが『不条理な世界は生きるに値しない』と言って、先手を打った、というステートメントから、本人もこの世の不条理を身近に感じているようで、そんな哲学的な疑問を胸に、インドで死と生が共存する姿を写真に収めている。出家したての髪を剃った裸の男達の写真や、その後は髪を伸ばし放題の長老の眼光鋭い写真、川辺のテント村、子沢山の母親と子供の写真など。冒頭の写真は川辺の石の上で、死体を薪に挟んで焼いている写真だ。そばで牛が死体の焼き残りの餌を待っている。全てモノクロ写真だ。藤原新也の「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」を確かめに何度(7回)もインドに通っているようでもある。

本人は快く、撮影に応じてくれた。

大門美奈・大門正明写真展「Bright Britain」

期間:2022.9.14-24, 11:00-18:30
場所: CO-CO・PHOTO SALON 銀座3丁目11-14 ルート銀座ビル 4F
                     TEL:03-3542-7110

2011年のデビュー以来、11年目となる夫婦による2人展。
2人とも六甲のフォトレビュー以来の知人だ。

作者の知人の結婚式に参加するためにロンドンに赴き、ついでに長逗留して、ロンドンや近辺の地域を2人で訪ねて、撮った写真が並んでいる。

ロンドンといえば、観光客が多い、混んだ風景が想像されるが、展示されて居るのは、人気の少ない場所での通行人の風情、子供に仕草、バスの車内の様子、石の建物の風情、など、まるで、地方都市の風情のようにも見える。

2人展だが、写真に作者氏名やタイトルは示されていない。視点もプリントのトーンも一人の作家の作品と言っても、誰も疑いを持たないくらい、統一されている。仲の良い2人の息があっているという事なのだろう。

記念に2人の写真と偶々、居合わせたFUJIFILMの沖氏の写真を掲載します。

服部一人写真展 6×6 Portraits B&W +Color

期間:2022.8.28-9.5

場所:ギャラリーストークス 南青山6−2−10 T1ビル4F

作者は若い時から6x6の正方形で撮る写真に共感して、海外で、25年前から撮った写真から最近の写真まで、場所も、ケニヤ、ザンビア、インド、タイ、ミャンマー、キューバなどで、撮りためたポートレートを並べている。子供たちの写真が多く、子供たちの素直で嬉しそうな表情が、フィルムの柔らかな感触で捉えられている。

この画廊での個展はすでに5回目で、過去のポートフォリオもファイルでまとめられていて、見ることができる。今回と前回の「初めての旅」のブックレットも販売している。たまたま、ゼミの卒業生で馬の写真を撮っている女性と一緒になったので、記念写真。

東京写真月間「地域との共生」浅野久男「”Kai”を探して。A Journey to Find “Kai” in Hokkaido」                 太田昭生「豊島30年”産廃からアートへ”」

場所:エプサイトスクエア丸の内 エプサイトギャラリー

期間:2022.5.27-6.8

2つの写真展が同じ会場を2分して開かれている。

浅野久男「”Kai”を探して。A Journey to Find “Kai” in Hokkaido」

作家は札幌在住だか、旅する写真家として北海道の各地を訪れて、各地の写真を撮っている。“Kai” とはアイヌ語で「この土地に生まれたもの」という意味で、松本幸四郎が「北海道」の命名の基になった言葉でもある。

そこに見えてきたものは、絶景とされる美瑛の風景などとは違う、衰退し、寂れた農村や町の風景である。札幌など限られた所以外の過疎化の現状が映し出されている。夕張の寂れた姿は特に作家の情感に訴えるものであるようでもある。

太田昭生「豊島30年”産廃からアートへ”』

作家は小豆島在住で、同じ瀬戸内海で産廃の島として有名になった豊島が産廃のゴミ溜めの島からアートの島に変身する過程を、1990年から2010年までの30年の定点観測によって島が変貌していった様子を写真に収めている。

過去はモノクロで、2010年はカラーで印刷することで、違いを際立たせてもいる。しかし、ここでも廃屋は廃屋のままで、過疎はここでも進行が止んでいないことも示されている。しかし、ここでは子供たちを含めた祭りの情景も示され、中でもケネディ駐日大使がお忍びで豊島の美術館を訪れた時に祭りと遭遇して、撮った記念のカラー写真が色を添えている。

亀山仁写真展「ミャンマーの人々と戦果の記憶」

期間:2022.5.5-11

場所:ポートレートギャラリー

作者はすでにミャンマーの人々や風景の写真を冬晴ギャラリーなどで発表し、写真集も出版している。

ミャンマーの子供たちの写真は外国人が撮る写真に関心があり、撮ってもらいたがる愛嬌がある、いわば、我々にとっては懐かしい子供たちの表情を写している。

今回は子供たちの写真もあるが、とても年配の彫りの深い人々の写真が展示されている。その人たちは戦時中のインパール作戦の頃に日本兵と関係した人々で、その頃の日本兵の慰霊祭を欠かさず行っている人だったりする。作者はミュンマーに日本兵が残した行跡を辿って、日本との関係を掘り下げようとしている。現代の日本と2021年にクーデターを起こした軍隊との関係にも立ち入ろうとしている。ミャンマーの人々の生活のあり方にも影響を及ぼす、政治にも関心を深めていると言えよう。

風景写真もインパール作戦の場所であったなどの詳しい説明がついていて、教えられることも多い。

本田光 写真展「うきま」

期間:2022_4.28-5.11

場所:エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー

第2回 epSITE Gallery Award 受賞

タイトルの「うきま」は作者と妻が住んだ「浮間」地区の風景モノクロの風景写真と所々に妻の日常での写真が入っている。

写真は8×10、4x5などの大型カメラで丁寧に撮影。台所の妻の正面からの写真はレンズの写りが良い。良いレンズを借りて撮ったとのこと。

2人の生活の様子がステイトメントに記されているが、喧嘩をした後の妻の言葉が引用されている。

「あなたはまだ、本当に大事なものを失ったことがないのよ。」

なんか自分にも当てはまりそうで、びくりとする。

作者はシナリオライターで、物語の筋書きには慣れているのだろうが、妻との日常生活の記録を10年に亘って、撮り続ける姿勢は写真家として重要な要素なのだろう。

また、それに応じて、撮らせ続けてきた妻はいわば、ゆっくりとこの写真家を育ててきたとも言える気がする。

私は六甲山フォトレビューやワークショップで作者と知り合い、また彼の妻とも出会って、優れた写真家でもある妻の薫陶も受けている。

曰く、「ポートレイトを撮るときには相手の腕に触ると良い。」と。

戸田和宣写真展「信州 桜 さくら サクラ」

期間:2022.2.24-3.1

場所:ポートレートギャラリー。四谷1-7-12, 日本写真会館5F

昨年1月に「H20の旅II東北」の個展を新宿でしてからあまり期間も経っていないのに、大規模な信州の桜の写真展だ。この作家は江東区在住で、撮影に出かけては風景写真を撮ってきているが、今回は信州の桜で、一回行くと10日くらいは行きっぱなしで撮影しているという。桜は特に時期が限られるので、特に集中的に撮影する必要があるだろう。新種の桜もお寺の枝垂れ桜が多い。枝垂れ桜は寿命が長いし、それだけに大きくなり、見事な花を咲かせる。全部で37点、全倍8枚、全紙、25枚、半切4枚、で、広い会場が見事な桜で埋め尽くされている。満開の桜が周りの環境とともに映されていて、そこに行ってみたくなる。場所が示されたパンフレットもあり、桜撮影を試みる人には良い資料ともなる。

Quatre Sens Exposition II フォトアート4つの個性・・・遠藤志岐子・兼本玲二・永島明・宝槻稔

場所:日本カメラ博物館 JCIIクラブ25

期間:2022.2.8-2.13 10:00-18:00

昨年に続き、2度目のグループ展だが、内容的には、それぞれに進化を遂げ、それぞれの作者の説明が興味深く、楽しめる。

兼本玲二の作品は水の落ちる様を上から下に辿ると同じではなく、途中から回転し、水玉が形成される。その様子をピンクの花びらを背景に高速撮影している。いわばミルククラウンの変化系とも言える作品。ピンクを映す水玉の立体的な模様が綺麗で、そこに作家の感性が写されている。

遠藤志岐子の作品はピンホールのカラーとモノクロの作品だが、今回は風を写すことをテーマにしている。モノクロの横長の風景作品があるが、それは横長のピンホールカメラを自作して、作成している。カラー作品は夕暮れ時に長時間で写していて、夕暮れの紺青色が綺麗に写っている。

宝槻稔の作品は熱海の取り壊されるホテルの大きな窓から写した熱海の海の風景写真だが、窓に貼り付けた別の彫刻家の針金の作品や空中に飛んでいるように見える凧のようなオブジェが風景の中に見える。不動の窓から波の動く風景を見ているが、風景の方が悠久で、見ている窓の場所はすぐ取り壊されるので、瞬時的だと気がつくとされる。

永島明の作品は写真を模様の入った和紙にプリントしていて、きらきら雲母?が輝いていたり、見る角度によって和紙の模様が浮き上がってきたりする。デジタルカメラで写した花鳥風月の世界を日本画的に表現することを続けている。青白い月の入った作品は月の部分に青い光が入るように工夫されている。

飯沢耕太郎と写真集を読み尽くす Vol.18 『フィリア―今道子』 philia– KON Michiko

日時: 2022.1.22 10:00-

場所:写真集食堂まがたま 恵比寿

『フィリア―今道子』は神奈川県立近代美術館鎌倉別館で開催されている写真展のカタログだが、100点の出品作品写真が載っている立派な写真集である。

今回は作者本人が立ち合い、カタログを作成した学芸員の朝木由香氏も立ち会って、写真集をめくりながら、その創作の背景を飯沢耕太郎が今道子に尋ねていくという形で進められた。

作家はたびたび、作品の中にも紛れ込んで登場しているが、不気味な姿で得体がしれないところがあるが、実は気さくな女性だ。展覧会で展示されている写真は階調が良く、黒が締まった作品で、印画紙へのプリントが美しい。その撮影の方法も話から伺えた。作品には膨大な量の魚の目が登場するが、魚は築地で自分で選んで近所のアトリエで自分で捌いて、作品に登場する形に加工し、夕方までの窓からの明かりで、適当な時間に撮影する。オブジェは「繭少女」のようにかなり手間のかかる造形なので、かなりの時間がかかるものと想像される。しかも夕方までの時間は限られているし、魚の鮮度が劣化するので、その日のうちに撮影を終えなければならない。写真に写ったオブジェの造形は細部まで凝った、光の当たり具合にも配慮した精巧なものだ。相当の集中力が要求される。その成果は写真の中に結実するが、4ー5のフィルムで撮影しているので、写真写りを、デジタルのように確かめられるわけではない。長年の経験の結果、勘所も掴めるのだと思う。撮影が終われば、作品は取り壊して、自分で食べられる魚は口に入れるが、使用する魚の量は膨大で、とても食べ切れるものではないので、近所に配りもするとのこと(カタログの対談から)。撮影はかなりの時間をかけた撮影になっていて、作品も時間の流れを感じさせるものになっている。これは「めまいのドレス」という作品が撮影途中で動いてしまって、ドレスのぶら下がった魚がダブった、と解説していたことからも窺える。また、展覧会場の作品は全倍ないしそれ以上の大きな作品だが、これはPhotographers’Laboratoryに45のフィルムとプリント作品を渡して、プリントしてもらったとのこと。諧調の良さは印画紙への直接のプリントのせいだ。会場が満員になる盛況ぶりだった。

山岸正和写真展 東京ラッシュ

山岸正和写真展 東京ラッシュ
場所:新宿オリンパスギャラリー東京 (新宿)
期間:2022.1.6-1.13

東京での街のスナップを継続的に続けていて、これが4度目の個展である。A2サイズの横画面で統一され、広いギャラリーの4面を埋めている。
街で見かけるさりげない瞬間を切り取っている。DMのサングラスの外国人や、バス待ちで、歩道に、立って待っているおじさん、髪を靡かせたスマホを見る女性、都庁の展望台から景色をみる家族、など。「行きかう人々も足早で常にラッシュ状態。」でタイトルも「東京ラッシュ」とは言え、写っている人々は、そんな中でのふとした表情だ。

オリンパスギャラリー東京 2022.1.6