飯沢耕太郎と写真集を読み尽くす Vol.18 『フィリア―今道子』 philia– KON Michiko

日時: 2022.1.22 10:00-

場所:写真集食堂まがたま 恵比寿

『フィリア―今道子』は神奈川県立近代美術館鎌倉別館で開催されている写真展のカタログだが、100点の出品作品写真が載っている立派な写真集である。

今回は作者本人が立ち合い、カタログを作成した学芸員の朝木由香氏も立ち会って、写真集をめくりながら、その創作の背景を飯沢耕太郎が今道子に尋ねていくという形で進められた。

作家はたびたび、作品の中にも紛れ込んで登場しているが、不気味な姿で得体がしれないところがあるが、実は気さくな女性だ。展覧会で展示されている写真は階調が良く、黒が締まった作品で、印画紙へのプリントが美しい。その撮影の方法も話から伺えた。作品には膨大な量の魚の目が登場するが、魚は築地で自分で選んで近所のアトリエで自分で捌いて、作品に登場する形に加工し、夕方までの窓からの明かりで、適当な時間に撮影する。オブジェは「繭少女」のようにかなり手間のかかる造形なので、かなりの時間がかかるものと想像される。しかも夕方までの時間は限られているし、魚の鮮度が劣化するので、その日のうちに撮影を終えなければならない。写真に写ったオブジェの造形は細部まで凝った、光の当たり具合にも配慮した精巧なものだ。相当の集中力が要求される。その成果は写真の中に結実するが、4ー5のフィルムで撮影しているので、写真写りを、デジタルのように確かめられるわけではない。長年の経験の結果、勘所も掴めるのだと思う。撮影が終われば、作品は取り壊して、自分で食べられる魚は口に入れるが、使用する魚の量は膨大で、とても食べ切れるものではないので、近所に配りもするとのこと(カタログの対談から)。撮影はかなりの時間をかけた撮影になっていて、作品も時間の流れを感じさせるものになっている。これは「めまいのドレス」という作品が撮影途中で動いてしまって、ドレスのぶら下がった魚がダブった、と解説していたことからも窺える。また、展覧会場の作品は全倍ないしそれ以上の大きな作品だが、これはPhotographers’Laboratoryに45のフィルムとプリント作品を渡して、プリントしてもらったとのこと。諧調の良さは印画紙への直接のプリントのせいだ。会場が満員になる盛況ぶりだった。